「自分たちの住むまちを良くしたい」。そんな思いを、空き家の再生や新たな商いにつなげるには―。リノベーションまちづくり会議「門前で、ひと話。」が23日、新潟県弥彦村のおもてなし広場で初めて開かれた。岐阜市で歴史ある建物の再生に取り組む実践者と、弥彦村に関わる事業者3人が登壇。冷え込む屋外の会場で、暮らしと商いが息づく門前町の未来を語り合った。

県が主催、弥彦村が共催し、(株)リノベリングが運営。同社の中島明チーフディレクターが進行した。
中島さんは、人口が減れば不幸せになるのかと問いかけた。人口減少時代の豊かな暮らしを考えることが取り組みのテーマだと説明。「作ることも時に必要かもしれないけれども、使いこなすこと」と、既にある建物や空間を生かす視点を伝えた。
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講演したのは、(株)岐阜まち家守社長で、創業150年の油問屋「山本佐太郎商店」4代目の山本慎一郎さん。「寒いですよね」と会場に声をかけ、新潟で食べた味噌ラーメンや、当日歩いた弥彦の話を交えながら、岐阜市の伊奈波神社周辺で進めるまちの再生を紹介した。
「きょう皆さんに伝えたいこと2つ」として山本さんが挙げたのは、「一緒にやりたいと思えるかどうか」と「自分たちらしさとは何なのか」という問いだった。
地域で商売を続けてきた人、各地の先進事例に詳しい人、建築や不動産の専門家などが、それぞれの力を持ち寄る。地域の人たちから出資を受け、古い建物と新たな事業の担い手をつないでいる。

「とりあえず駐車場にしとこう」が悲しい
活動の背景にあるのは、歴史ある町並みが失われていくことへの危機感だ。
「聞いて悲しい言葉。『とりあえず駐車場にしとこう』」。子どもが都市部に出て戻らず、老朽化した建物を残せば負担になる。
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所有者がそう考える事情に、山本さんは理解を示しつつ、建物を壊せば、そこにあった風景は「もう二度と戻ってこない」。
再生した建物のひとつが、元写真館を使ったビール醸造所。製薬会社に勤める人が仕事を続けながら醸造に取り組み、週末には地域の人が集まる場になっている。
天むす店では、3つの土鍋で作れる1日70個を上限に営業。「ちゃんと自分たちがおいしく提供できる範囲で商売を続けていく」と、無理に規模を広げない店のあり方を紹介した。
この店の出店者に、まちで商売を始めた感想を聞くと、「守られている感じがする」と返ってきたという。
神社や岐阜市の観光地でランドマークの金華山に近い環境もあるが、山本さんが大きいと感じたのは地域の人の存在。「何よりもやはり人だと思う」と、新しく商売を始める人を迎え入れる寛容さを挙げた。
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ガスを引き込むことが難しい物件では、「薪火でやるからいい」と、薪火料理の店として活用する道が開けた。建物の制約を踏まえ、その場所に合う事業者や使い方を結び付けている。
「暮らしと商売」があることが、自分たちらしさ
再生を続けるための資金の仕組みも紹介した。岐阜まち家守が建物を購入、改修し、出店者が入った物件を投資家に売却。その売却益を次の物件に回し、売却後も管理を担って収入を得る仕組みで、5年間で30件の案件に関わってきた。
取り組みが順調に進んでいるように見える理由を問われると、山本さんは「もうカツカツ。ギリギリながらやっている」と率直に明かした。そのうえで、自分たちが店舗の運営者になるのではなく、所有者や事業者、投資家らをつなぐ役割を大切にしていると説明した。
「僕は、この伊奈波で生まれ、育ち、暮らし、商売している」。商売だけでなく、暮らしも同じまちにある。それが地域らしさであり、「自分たちの住むまちを良くしたい」という思いにつながっている。地域の人と将来のまちの風景を考え、目指す姿を共有する取り組みも続けている。
当日、歩いた弥彦では、参宮通りや保育園跡地の活用に可能性を感じたという。表通りに加え、裏側の道にも立ち寄り先ができれば、まちを歩く楽しみが増える。「きょうをきっかけに、弥彦がまた変わっていくことを楽しみにしている」と期待を寄せた。
観光客にも、地元の人にも楽しいまちへ

地元事業者のトークでは、「四季の宿みのや」を営む弥彦総合開発(株)の白崎純也代表取締役社長が、古い写真を交えて門前町と宿の歴史を振り返った。
昔のみのやは、木造2階建てから3階建てに増築した。かつての宿の姿を紹介し、その建物が今の神社通りに残っていれば、景観の上でも魅力になったのではないかと語り、これからは宿の外観と町並みとの調和も考えていきたいとした。
白崎社長が振り返ったのは、観光客向けの店と、住民の暮らしを支える店が共にあった子どもの頃の弥彦だ。本屋や駄菓子屋があり、地元の人にも過ごしやすく、楽しいまちだったという。
観光客に来てもらうことは大切だが、観光業に直接、関わらない住民の理解や協力も欠かせない。地域が一体となってまちづくりを進める必要があると話した。
村外からの参加者にも「弥彦、本当にいい村なので」と呼びかけ、「ぜひ住んでいただいて」と移住を勧める場面もあった。地域の外から加わる人の視点にも期待を寄せた。

e.bis(株)の吉田扶友子さんも登壇。地域の食材や商品などを取り上げ、地元では見過ごしがちな魅力を、外からの視点で紹介した。
にぎわいを一度きりで終わらせない
(株)ヤヒコロジーの佐藤行成代表取締役は、2023年2月にUターン。久しぶりに戻った地元で、子どもの少なさに驚いたという。空き家が新しい商売の場として十分に使われていないことにも課題を感じ、人や事業が地域の中で循環する仕組みづくりに取り組んでいる。
音楽イベントや、複数の会場を巡る「弥彦ジャズフェスタ」などでは、普段とは異なる人の流れが生まれた。神社以外の場所を知り、まちを歩いてもらうきっかけにもなっている。
ただ、イベントだけでは「単発で終わってしまう」。季節によって来訪者に大きな波がある中、にぎわいを日常につなげることが課題だとした。

そのために進めているのが、空き物件などを使った拠点づくり。参宮通りで朝食を提供する店の開業準備や、旧弥彦保育園を活用した生ハムづくりの取り組みを紹介した。
「実際にやってみないとわからない」。まずは自分たちが事業に取り組み、物件の活用や開業に必要な経験を積む。その経験を、これから商売を始めたい人への支援にもつなげたい考えだ。
朝から食事ができる場所や、夜も楽しめる場所を増やし、訪れるきっかけに加えて、長く滞在する理由をつくる。空き家や使われなくなった施設を、弥彦の日常を豊かにする場へ変えていく構想を語った。
