新潟県燕市の金属研磨業者でつくる共同受注グループ「磨き屋シンジケート」(会員39社)は1日、金属ボディーを鏡のように磨き上げた「研磨車両」を燕市役所へ持ち込み、佐野大輔市長に披露した。車両はマツダの「NDロードスター」。通常は塗装で仕上げる自動車のボディーの塗装をあえて剥離し、金属の素地を直接研磨して鏡面に仕上げた。
塗装をはがしてアルミ素地を鏡面に
表敬訪問には、磨き屋シンジケートのメンバーと事務局の計5人が訪れた。市役所駐車場で実車を披露し、車体の前で記念撮影。その後、市長室で完成報告と今後の技術活用、地域振興について懇談した。
研磨したのはボディーすべてではなく、アルミで作られたボンネットと左右のフロントフェンダー、トランクフード。白い塗装を剥離剤(はくりざい)などを使ってはがしたうえで、乾式のバフ研磨で10工程以上をかけて鏡面仕上げを施した。
ドアやリアフェンダーはスチール、前後バンパーなどは樹脂のため、今回は塗装をそのまま残した。
仕上がった車体は、周囲の景色や人の姿が映り込むほどの輝き。塗装による光沢とは異なり、金属そのものの重厚で深い輝きを放つ。市役所の駐車場でも、鏡面部分に空や建物が映り込んで美しかった。
乾式では考えられないほどの鏡面に
磨き屋シンジケートのチェアマン代行で、(有)富研工業代表の富田直樹さん(52)によると、最大の課題は、自動車の薄いアルミパネルを熱でゆがませずに磨くことだった。
バフ研磨は摩擦で熱が発生する。車体には補強の入っている部分とそうでない部分があり、熱の伝わり方や膨張の仕方が場所によって異なる。
磨き続けると、パネルが浮き上がったり、波打つようにゆがんだりするため、磨く場所を変えながら熱を逃がし、冷ましてから再び磨く作業を繰り返した。
湿式なら傷をもっと抑えられるが、ふだんの作業と同じ乾式にこだわった。さらに、ただ光らせるだけでなく、元の生地のうねりや梨地も取り、妥協のない鏡面を目指した。
2年がかりのプロジェクト 大阪オートメッセにも出展
磨き屋シンジケートは、不況や中国への生産移転などで仕事が減るなか、市内の研磨業者が「競争より共同」を掲げて2003年に発足した。
磨き屋シンジケートと言えばステンレスエコカップで知られるが、フェラーリなどのデザインも手がけた世界的な工業デザイナー奥山清行さんとワイングラスを共同開発したこともあり、技術の向上も目指してきた。
発足して間もないころには、国の依頼でスバルの軽自動車「R1」の外装のうち樹脂部分を除く部分を研磨したことがあり、注目を集めた。
技術を目に見える形で発信しようと約20年ぶりの研磨車両に挑戦
磨き屋シンジケートは発足から20年を超え、技術を目に見える形で発信しようと、2年前にプロジェクトをスタート。約20年ぶりに自動車の研磨に挑むことにした。
ロードスターは、富田さんが自費で購入した。「年を取ったら最後に乗りたいと思っていた車を、10年くらい早めて手に入れた」と笑う。
研磨作業には6人ほどのメンバーがかかわり、優に延べ100時間以上を費やした。条件出しから仕上げまで試行錯誤の連続だった。
完成した研磨車両は、ことし2月に大阪で開かれた自動車展示会「大阪オートメッセ2026」に出展。3日間でブースに立ち寄った人は約2,000人にのぼった。
富田さんは「子どもたちが足を止めて喜び、それを見た親が『何だろう』と寄ってくる。とてもいい反応だった」と振り返る。
子どもたちに「磨き」の魅力を
今後は展示会だけでなく、地域イベントなどでも研磨車両を活用したい考えだ。スプーン磨きなどの体験と組み合わせ、子どもたちや若い世代に燕の研磨技術を身近に感じてもらう機会を増やす。
富田さんは「まず自分たちが楽しくないと、興味をもってもらえない。若い人たちに、工場で働くことや、磨きを覚えることに興味をもってもらえたらうれしい」と話す。
研磨業界では職人の高齢化や人手不足が続き、廃業する事業所もある。県外からも「これまで頼んでいたところができなくなった」と新たな依頼が寄せられているという。
一方で、半導体関連部品や医療・食品分野、他産地とのコラボレーションなど、研磨技術の需要は広がっている。
富田さんは「磨きを覚えれば、何でもピカピカにできる。子どもたちがこの車を見て『自分もやってみたい』と思ってくれたら、それが一番うれしい」と期待している。
燕市とコラボレーション事業を行っているプロ野球・東京ヤクルトスワローズの「燕市DAY」は、ことしは9月22日に神宮球場で行われる。
燕市が毎年行っているスプーン研磨体験は人気で、佐野市長は「ロードスターを神宮球場まで乗ってきてほしい。燕市のいろいろなイベントでコラボしてほしい」と発信力に期待していた。
