新潟三条市は1日、近年増加するクマやイノシシ、サルなどの野生鳥獣による農林業被害の拡大防止と市民の安全確保を目的に鳥獣被害対策専門員1人を公募し、任用した。専門員には三条市在住の現役ハンター、西澤和斗さん(28)が着任。同日、三条市役所で辞令交付式と新潟県猟友会三条支部との意見交換会が行われ、鳥獣被害対策の連携強化へ一歩を踏み出した。
三条市は、専門員の着任に合わせて猟友会三条支部と意見交換し、今後の鳥獣被害対策の在り方について共通認識を深めるとしていた。会場には猟友会三条支部や三条、栄、下田各分会、鳥獣監視員、市の関係者が出席した。
「安心安全な三条市を」滝沢市長が辞令交付
辞令交付式で滝沢亮市長が西澤さんに辞令を手渡し、「一緒に安心安全な三条市をつくっていきましょう」と声をかけた。
西澤さんは5月1日付で三条市鳥獣被害対策専門員に任命され、経済部農林課農政係勤務。任期は2027年3月31日までで、会計年度任用職員として年度ごとに更新する形を想定している。
専門員は、いわゆるガバメントハンターとして自ら捕獲することが主な仕事ではない。鳥獣被害対策実施隊や猟友会、行政の間に入り、捕獲活動やわなの設置場所、出没情報の共有、地域への啓発などを調整する役割を担う。
狩猟免許7年、前職も鳥獣被害対策
西澤さんは新潟市南区出身。結婚を機に三条市に移住し、現在は移住7年目。幼少期から獣害の現場を見て育ち、三条市への移住を機に狩猟免許を取得して7年になる。
これまで長岡市の有害鳥獣被害対策の会社に勤め、行政へのコンサルティングや講演、捕獲業務の調整などを行ってきた。
三条市がアウトドアに親しみやすいまちで、登山やキャンプなどへの関心から狩猟免許取得につながった。移住先に三条市を選んだのは「ほどよく田舎で、ほどよく都市部。ちょうど良さが三条市にはある」と言う。
「子どもがこの地域で長く住むために」
西澤さんは、「ベテランのなかに若者がひとりという感じで、かなり緊張している」と率直に話す一方、「わたしから皆さんに声がけさせていただいて、地域のために何かできれば」と話した。
応募の理由については、三条に移住して5年以上になるなかで、鳥獣被害対策の必要性を身近に感じたことを挙げた。昨年は自宅前のカキの木にクマの足跡が残っていた。「身近で獣害の危険性を感じる部分はかなりある。自分の子どもがこの地域でこの先、長く住んでいくために、何か私にできることはないかと思った」。
今後の活動については、「あくまで私が捕獲をするということではなく、実施隊の方々の調整をメインにさせていただく」とし、「いち三条市民として、わたしのもつ知識や技術を何か残せれば」と意気込んだ。
昨年度のクマ出没は144件 市街地出没も
辞令交付式後、新潟県猟友会三条支部会員や三条市鳥獣被害防止対策協議会鳥獣監視員と意見交換した。昨年度は三条市内だけでも144件ものクマの出没情報があり、滝沢市長は「例年にない状況」と振り返った。
それでも人身被害がなかったのは「猟友会三条支部が、平日、休日問わず、昼、夜を問わず尽力いただいた結果」と感謝した。
昨年12月に猟友会と行った意見交換での意見を踏まえ、市は今年度予算に対策強化を盛り込んだ。そのひとつがこの鳥獣被害対策専門員の任用。それに加え、新たに猟銃を取得する人への支援、実施隊員や監視員への報酬増額、射撃練習費用の補助などに取り組む。
滝沢市長は「サポートをこれまで以上に厚くしたから、あとは皆さまお願いねという気持ちはまったくない。これからも皆さまと一緒に市民の安心安全を守っていかなければならない」と気を引き締めた。
猟友会「机上だけでなく訓練を」
新潟県猟友会三条支部の渡邉英男支部長は、全国的にクマの捕獲数が増えている状況を踏まえ、「それだけ危険度が高まっているのではないか」と警戒感を示した。
とくに市街地での発砲は、弾の到達距離や安全確保の面で難しい判断を伴う。渡邉支部長は、緊急銃猟の制度が始まっていることにふれ、「いざとなった時に右往左往しないよう、関係者で打ち合わせの場をもってほしい」と要望した。
ほかの出席者からも、旧三条地区の大崎など市街地にクマが出没した実例を踏まえ、「可能性はゼロではないという前提で、机上の会議だけでなく、訓練やシミュレーションをぜひやってほしい」と意見があった。
滝沢市長は「机の上の議論だけではわからないことがたくさんある。どういう形がいいか考え、ご相談させていただきたい」と求めた。
猟友会員89人、実施隊員59人 担い手確保も課題
三条市内の鳥獣被害対策は、三条市鳥獣被害防止対策協議会を中心に進められている。同協議会は市、警察、猟友会、JA、NOSAI、森林組合、漁協、自治会長協議会で構成され、事務局は三条市経済部農林課に置かれている。
猟友会三条支部の会員は89人。一方、市が任命する鳥獣被害対策実施隊員は今年度59人で、猟友会三条支部から推薦を受け、市が非常勤特別職として任命している。
実施隊員は捕獲活動や罠の設置、必要に応じた銃器による対応など、免許を持つ人でなければできない現場対応を担う。
さらに三条市鳥獣被害防止対策協議会では、5月1日から12月中旬まで鳥獣監視員6人を雇用し、1日2人体制で市内をパトロール。出没状況を把握し、おりの設置や追い払い、駆除などの判断につなげる。
ただ、猟友会側からは高齢化への危機感も示された。渡邉支部長は、三条支部の会員89人のうち半数以上が高齢化しているとし、担い手確保は喫緊の課題と訴えた。
鳥獣被害対策は、市民生活の安全確保や農作物被害の防止だけでなく、里山と人との関係をどう保つかという課題でもある。三条市は今年度、西澤さんの専門的な知見を加え、猟友会や実施隊、監視員との連携をより密にしながら、秋の本格的な出没期に備える。
