1票差の選挙結果はもちろんあり得るとは思っていたが、その現場に居あわせることになるとは想像したこともなかった。そんな「まさか」が現実になった。
5月31日投開票の新潟県田上町長選で、現職の佐野恒雄氏(79)が新人の今井幸代氏(41)に競り勝った。得票はそれぞれ3,030票、3,029票。わずか1票差だった。
耳に届いていた情勢は五分五分。開票時は当選者の万歳を取材したいが、体はひとつしかない。どちらを取材しようかと考え、新人の勝利の方が話題性があるだろうと、今井氏の陣営に向かった。
午後10時20分ごろ、田上町選管から「1票差で佐野氏が上回った」という発表があった。佐野氏の万歳の瞬間を逃してしまったと思いつつ、急いで車を走らせて佐野氏の陣営に到着した。
1票差の勝利にさぞや歓喜に沸いているのだろうと思ったら、会場は何やらざわざわしている。聞けば、まだ票を数え直しているとのことだった。
一般に、中間発表は得票を百の桁くらいのきりのいい数字で発表するものだ。一の桁まで出すのは確定のときと学習している。てっきり確定したと思い込んでいたので、これには驚いた。
これほど小差だからといって、発表後に数え直すなんてことがあるのだろうかと不審に思ったが、餅は餅屋。元自治体職員に問い合わせると、僅差の場合には確定前に再点検をすることがあるという。
なるほど、そういうこともあるのかと確定の発表を待った。先の中間発表から遅れること約25分、10時45分ごろにようやく確定が発表され、会場は歓声に包まれた。
佐野氏の反応は想定外だった。佐野陣営に到着したとき、1票差で上回っているという発表があったにもかかわらず、佐野氏にはまったく笑顔がなかった。それどころか、強い危機感を抱いているような厳しい表情でいすに座っていた。
確定が発表されて飛び上がって喜ぶ支持者とは対照的に、本人は呆然としているように見えた。まだ現実と思えないのか、こわばった表情のまま。駆けつけた近隣自治体の首長と握手したときに、ビクッと肩をすくめて身震いするような仕草もあった。
万歳三唱をし、花束を受け取るときも表情は硬く、笑顔を見せてもぎこちない。あいさつを始めて、ようやく普段と変わらない柔らかい笑顔を取り戻した。
1票差の勝利にはこれ以上ないほどの歓喜が待っていると思っただけに、佐野氏の挙動は意外だった。支持者は当選が決まった瞬間に喜びを爆発させたが、結果が出てもなお緊張が解けない佐野氏の姿が印象に残る。
「勝って兜の緒を締めよ」ということなのだろうか。あるいは83歳まで続くこの先4年間の重責をあらためて実感したのか。支持者からは「1票差でも勝ちは勝ち!」という声が上がったが、見方を変えれば、これ以上なく信任が薄い勝利でもある。
会場で品田宏夫刈羽村長が「戦った向こう側にも、ほぼ同数の人たちがいる。これからはノーサイド。遺恨を残さず、佐野町長のもとでいいまちづくりに励んでほしい」と述べた。薄氷の勝利を経て、佐野氏の3期目のかじ取りがスタートする。
