新潟県燕市の中心市街地再生モデル事業の一環で、同市吉田旭町の旧診療所をリノベーションした複合施設「Glow(グロウ)」が8月29日、グランドオープンした。昭和初期から地域に根ざしてきた建物の面影を残し、古道具、ドライフラワーと雑貨、本と絵の3店が入居する。手がけた株式会社GOOD LIFE(グッドライフ、蓮沼知大代表取締役)が吉田で空き家、空き店舗の再生に取り組み始めて約8年。点から始まった取り組みが、まちなかへと広がっている。
Glowのコンセプトは「まちにやさしい光を灯す複合施設」。単に古い建物をきれいにして新しい店舗をつくるのではなく、建物に残る記憶を受け継ぎながら、新しい人や活動、小さな挑戦が生まれる場所を目指した。
昭和9年登記の旧診療所を再生
JR吉田駅から徒歩3分、建物は木造2階建てで延べ約300平方メートル。登記上は1934年(昭和9)の建築で、2016年ごろまで診療所として使われていたとみられる。
蓮沼さんが建物に興味を持っていることを知った所有者側から「使ってくれないか」と声がかかったことから活用が動きだした。2024年ごろに内部を見て建物の魅力を感じ、定期市にあわせて毎月のように開いているマルシェイベント「トコマルシェ」の会場に利用するなど、イベントで使いながら活用方法を探ってきた。
GOOD LIFEが建物を借り、本格的な改修はことし7月ごろから進めた。何もかも新しく造り替えるのではなく、玄関をはじめ診療所時代の趣や什器をできるだけ残した。まだ空きスペースがあり、2階も改修すれば活用できる可能性がある。
「1店舗目」から始まった吉田のリノベーション
蓮沼さんが吉田で空き店舗の再生に乗り出したのは2018年。建築設計士ら5人で「ヨシダリノベーションプロジェクト」を立ち上げ、代表として吉田上町の元呉服店だった木造2階建ての空き店舗をDIYで改修した。
当時から、1軒を再生して終わるのではなく、そこをきっかけに2店舗目、3店舗目と新しい店や活動が生まれることを思い描いていた。空き家そのものだけでなく、商店街に対する人々の意識も変えていこうという取り組みだった。
翌2019年には吉田の商店街を舞台に、自治会や店舗と連携して空き家、空き店舗を活用するイベントにも参加。空き家再生についてのトークセッションにも登壇した。
その後、コミュニティーカフェやトコマルシェなどへ活動を広げた。2025年3月には燕市主催で遊休不動産活用をテーマにしたセミナーが吉田で開かれ、GOOD LIFEが協力。蓮沼さんが参加者を案内してまち歩きを行うなど、新たな担い手を吉田へ呼び込む取り組みにもかかわってきた。
空き家の古道具を次の人につなぐ
「TOO GOOD TO WASTE(トゥー・グッド・トゥ・ウェイスト)」を営む岸川悠二さん(42)は東京都板橋区出身。全国で移住先を探し、2023年に燕市の地域おこし協力隊として吉田へ移住した。
協力隊では空き家バンクの管理を中心に担当。そのなかで空き家に残された古い家具や道具を引き取り、きれいにしたり修理したりしてイベントで販売するようになった。まだ使える物を捨てずに次の人へつなぐ活動への反応は良く、取り扱う品も増えていった。
2026年3月末で協力隊の任期を終え、4月に起業。Glowの工事中は近くの空き店舗を仮店舗として使い、完成に合わせて移転した。
「倉庫みたいなところからスタートしたので、ちゃんと自分の城が持てた感じ」と岸川さん。古い建物を活用するGlowについても、使われなくなった建物が再び活用される姿を見て、「自分も使ってみようかな」と考える人が一人でも増えてほしいと期待する。
診療所のカルテ棚も生かす「菜の香」
Glowに入居する「herb village 菜の香」は、山田香菜さん(42)=弥彦村=が営むドライフラワーと雑貨の店。2019年ごろから弥彦駅前で営業していたが、建物の老朽化で移転先を探していた。
旧診療所を見て「ほぼ一目ぼれ」し、2025年11月にGlowへ先行して入居した。
山田さんは建物を「なるべく何も変えないように」使うことを心がけた。店内には診療所で使われていたカルテ棚、棚、時計、事務机などがそのまま什器として使われ、ドライフラワーや雑貨と昔の診療所の雰囲気が同居する。
改修で使えるスペースが増えたことから、以前の店でも行っていたワークショップを再開し、複数の糸を組み合わせる「引き揃え糸」作りなどにも取り組みたいという。
「本の話ができる場所」が欲しかった
「本と絵 chichiya(チチヤ)」を開いた神林陽子さん(49)は吉田在住。燕図書館で働いて9年目になる。
図書館の同僚と絵本の読み聞かせなどをするうち、もっと自由に本を通じた活動をしたいと思うようになった。2025年夏からマルシェなどで本の移動販売を始め、ことし3月にGlowで開かれた本のマルシェへの出店をきっかけに入居が決まった。
中心に扱うのは大人向けの絵本。神林さんが好きな米国の絵本作家M.B.ゴフスタインの本をはじめ、新刊、古本、昔の「暮しの手帖」など数百冊を並べる。
「chichiya」の店名は、母親の実家がかつて吉田で営んでいた牛乳店にちなむ。もともとはその場所で本屋を開きたいと考えていたが、縁あってGlowに入った。さらに改修中、旧診療所から偶然、牛乳を入れる箱が見つかり、「縁を感じた」と神林さん。店内には母親の実家に残っていた牛乳関係の品も飾る。
移動販売では本を持ち運ぶため傷みやすかったこともあり、「本の話ができる場所が欲しかった」という。今後は古本を増やすほか、お話会なども開いていきたい考えだ。
Glowからエリア全体へ 近隣にはゲストハウスも
蓮沼さんは現在、自身を「挑戦できる街をつくる建築デザイナー」と表現する。近年は吉田に若い世代が営む店も増え、店から店へ歩いて巡れるようになってきた。
Glowも単独の施設としてではなく、空き家や空き店舗を活用しながらエリア全体を再生する取り組みの一つに位置付ける。
燕市中心市街地再生モデル事業では、Glowのほか、近隣にゲストハウスを整備する計画も検討中だ。
蓮沼さんは旧診療所について「この建物自体がこの地域の資源」と話す。昔ここを診療所として利用していた地元の人にも足を運び、新しく生まれ変わった姿を見てもらいたいという。
Glowにはまだ活用できるスペースも残る。空いている建物に新しい人が入り、その活動がまた次の人を呼ぶ。2018年に「1店舗目」から始まった吉田のリノベーションは、8年を経て少しずつエリアへと広がっている。住所は燕市吉田旭町1-8-31。
