10月1日から改正労働施策総合推進法に基づき、企業・事業主によるカスタマーハラスメント(カスハラ)防止対策が義務化されたのに伴って新潟県三条市は28日午後、市役所で課長補佐以上の職員を対象にカスタマーハラスメント対応研修を行った。2回に分けて課長補佐級以上の合わせて約80人が受講し、滝沢亮市長ら三役も参加。職員個人に任せず、組織として毅然と対応するための判断基準や実務を学んだ。

職員の約3割がカスハラを経験
三条市が昨年9月に実施した職員アンケートでは、約3割の職員がカスハラを受けた経験があると回答した。これまでも大声を出す来庁者や、長時間にわたって対応を求める事例があり、職員の負担や通常業務への影響が課題になっていた。
市は2024年8月、職員のプライバシー保護を目的に名札の表示をフルネームから名字だけに変更。25年3月1日からは、カスハラ対策と市民サービス向上のため、市役所のすべての外線電話に通話録音装置を設置して一斉に録音を開始した。
広告
さらに国のカスハラ防止対策が義務化されたのに伴ってことし10月にはカスハラ対策基本方針を策定してホームページで公表し、市役所などに啓発チラシを掲示するなど、段階的に対策を強化している。
今回の研修もその一環で、従来のクレーム対応マニュアルを改定してカスハラの定義や対応手順を明確にしたことから、管理職に内容を周知し、各所属で統一した対応ができるようにすることを目的とした。
滝沢市長「職員を守り、より良い行政サービスを」
研修の冒頭、滝沢市長は、市民や公共施設利用者の意見や要望は行政サービスの改善に欠かせないとしながらも、要求の方法や手段が度を超えれば、ほかの業務に影響するだけでなく、対応する職員が心身をすり減らし、休職や退職につながる可能性もあると指摘した。

自身も市長室まで大声が聞こえてきたり、職員が長時間の対応を余儀なくされたりする事例を見聞きしていると説明。管理職には自らの対応だけでなく、部下をサポートし、守る責任があると強調した。
そのうえで、法律や制度を学ぶこと自体が研修の目的ではなく、「それを通じて職員を守る、ひいては最終的にはより良い市民サービス、行政サービスの提供というところが目的、ゴール」と述べた。
広告
正当な苦情とカスハラの線引きを学ぶ
講師は、弁護士法人中村総合法律事務所(新潟市中央区)の松野泰知弁護士。松野弁護士は、カスハラかどうかは、相手の要求内容が妥当か、要求を実現するための手段や態度が社会通念上、許容される範囲内かという2つの視点で判断すると解説した。
市民からの正当な苦情や要望には真摯(しんし)に向き合う必要がある一方、暴言や脅迫、土下座の要求、長時間の居座り、執拗(しつよう)な電話などは、要求内容が正当でもカスハラに該当する場合があるとした。
実際に自治体と市民の間で争われた裁判例も紹介。正当な制度の利用であっても、回数や態度、業務への影響によっては違法と判断される場合があるとし、対応時間や回数、言動などを記録に残す重要性を説いた。
まず、現場での初期対応で聴取のポイントの1つ目というところで、この聴取の段階では、いわゆる道義的な謝罪を有効活用して、丁寧に対応をしてください。この段階ではまだカスハラかどうかというのは決まっていません。
また、初期対応として法的な謝罪はしないようアドバイスした。道義的な謝罪は「法的な責任や事実関係を承認したり、そういった責任を発生させないために行うもの」で、具体的には「不快な気持ちにさせて申し訳ない、不便をおかけしてお詫び申し上げます」といったもの。
広告
それに対して、「返品、交換を検討いたします」や、「管理を怠ってしまい申し訳ありません」というような発言は、法的責任を認めているというふうに捉えられかねないと注意を促した。

対応打ち切りの目安は15~30分
改定したマニュアルでは、まず相手の主張を聞き、事実関係や要求内容を確認して記録することを基本とする。カスハラが疑われる場合は、できる限り複数の職員で対応し、管理職が判断。カスハラと認められた場合は対応の終了を伝え、改善されなければ打ち切る。庁舎からの退去要求にも従わない場合は警察への通報も検討する。
長時間の対応については、話がこう着状態になってから15~30分程度が切り上げの目安。ただし、一律に時間で区切るのではなく、個別の事情に応じて判断する。
松野弁護士は、担当者が一人で抱え込まないことが重要で、管理職が早い段階から関与して担当者の交代や複数人での対応を検討するよう求めた。また、窓口でのやり取りについても、相手の同意を得た録音を基本としながら、脅迫や暴言など悪質性が高い場合は、同意を得ずに録音することも考えられるとした。
市長が窓口での録音・録画への対応を質問
質疑応答では、滝沢市長が、窓口を訪れた市民がスマートフォンなどで録音や録画を求めたり、すでに録音・録画していたりする場合の対応について質問した。
松野弁護士は、録音や録画そのものを直ちに禁止することは難しいとし、「まず前提として録音されても問題ないように対応する」ことが重要と説明。他の市民の会話が入り込む場合や、録音が脅迫などに利用される場合は中止を求めることが考えられると答えた。
ほかにも担当職員が自分で対応できると言っている場合でも管理職が介入すべきかとの質問があった。松野弁護士は、本人の意思よりも管理職が事情を把握して適切に対応する責任が優先されるとの考えを示した。
研修の最後には、各所属でマニュアルを共有し、過去の事例を蓄積して対応方針を検討するよう要請。誰が対応しても同じ判断ができる組織づくりを求めた。
