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「偉い人の話も鵜呑みにしないで」前川喜平さんが加茂暁星高校で講演 SNS時代に必要な「疑う力」説く

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新潟県加茂市の加茂暁星高校(仲野孝校長)は5日、新潟中央短大で夏季特別講演会を開き、岡山自主夜間中学校代表で一般社団法人基礎教育保障研究所理事長の城之内庸仁(しろのうち・のぶひと)さんと、同研究所顧問で加計学園問題などで注目を集めた元文部科学事務次官の前川喜平(まえかわ・きへい)さんが講演した。

講師の前川喜平さん(左)と城之内庸仁さん
講師の前川喜平さん(左)と城之内庸仁さん

城之内さんは、義務教育を十分に受けられなかった人たちの現状や夜間中学の役割を紹介。前川さんは、人工知能(AI)やグローバル化が進む社会を生きるために、自ら学び、情報や権威を疑い、自分の頭で考えることの大切さを高校生に訴えた。

推薦・総合型選抜にも役立つ多様なものの見方を

同校の夏季特別講演会は昨年度に始まり、ことしで2年目。主に大学進学を目指す生徒を対象に、受験科目の補習だけでなく、推薦入試や総合型選抜の小論文、面接などにも生かせる多様なものの見方や考え方を身に付けてもらおうと企画した。

昨年は城之内さんが講演し、ことしは前川さんと2人で講演。今回は希望した3年生を中心に一部、2年生を含む生徒25人が参加。城之内さんが「学ぶことは生きること〜夜間中学から見えてくること」、前川さんが「これからの社会と学び〜多様な教育のあり方を考える」と題して話した。

新潟県内に義務教育未修了者3万5千人以上

城之内さんは、風邪で病院へ行くとき、利き手に包帯を巻いて問診票を代筆してもらう人や、計算ができず買い物では常に紙幣を出す人など、読み書きや計算ができないことで生じる生活上の困難を紹介した。

希望した生徒25人が聴講
希望した生徒25人が聴講

2020年国勢調査を基に、全国には最終卒業学校が小学校の人が約80万人、小学校にも在学したことがない人が約9万人を数える。少なくとも約90万人が義務教育を修了していないと説明。新潟県内では小学校を卒業していない人が1千人以上、最終卒業学校が小学校の人が3万5千人以上いると話した。

県内の義務教育未修了者は新潟市が8,716人で最も多く、長岡市4,814人、上越市2,828人、村上市1,738人、新発田市1,469人、燕市1,405人、三条市1,388人などとなっている。

不登校だったため中学校を形式的に卒業したものの、実際には十分な教育を受けられなかった人、外国にルーツがあり日本語を学ぶ機会を得られなかった人など、夜間中学を必要とする人の背景は多様化している。

「読み書き計算の学校」だけではない夜間中学

城之内さんが2017年に設立した岡山自主夜間中学校では、年齢や国籍を問わず、学び直しを求める人をボランティアが支援している。登録者は400人を超え、小中学校で不登校だった若者、外国人、高齢者らが学んでいる。

80歳前後になってそろばんを学び始めた人についてふれた。その人は子どものころ、家庭の事情でそろばんを用意できず、そろばんの授業がある日は学校を休んでいた。長年、心に残っていた「そろばんを学びたい」という願いを夜間中学でかなえた。

城之内庸仁さん
城之内庸仁さん

城之内さんは「夜間中学は読み書き計算を学ぶだけの学校ではない。一人ひとりの願いや、その人の尊厳をもう一度、確かめる場所でもある」と話した。

また、学校へ通えなかった子どもが宿泊研修で仲間と掃除をし、「みんなと掃除ができるのがうれしい」と喜んだエピソードを披露。「皆さんにとっては面倒な掃除や登下校も、学校へ行きたくても行けなかった人には大切な時間。学ぶことは生きることであり、より良く生きること」と結んだ。

文科省の夜間中学政策を「靴に足を合わせる」と批判

前川さんは1979年に文部省へ入り、2016年に文部科学事務次官に就任。退官後の2017年、学校法人加計学園の獣医学部新設を巡り、「総理のご意向」などと記された文書について「確実に存在していた」と証言し、一連の問題で広く知られるようになった。

講演では文科省に在職した当時、文科省が長く夜間中学を不要と考えていた歴史を振り返った。

昼間の学校へ通えない子どもがいる現実に対し、制度を変えず、現実の側を制度に合わせようとしていた。そのことを「本来は足に合う靴を用意しなければならないのに、靴に足を合わせろと言っていた」と例えた。

前川喜平さん
前川喜平さん

その後、夜間中学関係者の長年にわたる働き掛けで2014年、超党派の議員連盟が発足。2016年には教育機会確保法が成立し、文科省も夜間中学を全国に設置する方向へ大きくかじを切った。

前川さんは初等中等教育局長などとして転換期に関わった経験から、「制度をつくる側が、本当に学校を必要としている人の声を聞かなければ、うまくいかない」と述べた。

SNSはデマや偏見を増幅

講演の終盤、前川さんは、これからの社会を生きる高校生に必要な力として「情報を見分け、自ら考える力」を強調した。

SNSでは利用者の好みに合う情報が優先的に表示され、同じ意見ばかりが返ってくる「エコーチェンバー」や、異なる考えが届きにくくなる「フィルターバブル」が生まれると説明。注目を集めるほど利益につながる「アテンションエコノミー」によって、事実でなくても刺激の強い情報が拡散されやすいとした。

匿名で相手を攻撃する誹謗中傷や、外国人など特定の集団を一括して悪者にするヘイトにも警鐘を鳴らした。

講演後の取材では、デマを見抜くことは「難しい」としたうえで、「本当に証拠があることなのか、ただの伝聞ではないのかを確かめる必要がある」。災害時には不安や混乱からデマが広がりやすいとし、関東大震災時の朝鮮人虐殺につながった流言を例に挙げた。

デジタル情報にだまされるのは若者に限らないとも指摘。「むしろ中高年の方が、あっという間に取り込まれてしまう危険もある」と述べ、世代を問わず情報を検証する力が必要だとした。

AIに使われず、学びながら働く

前川喜平さん
前川喜平さん

AIの発達により人間が担ってきた仕事の一部がAIに置き換わる一方、使い方によっては労働時間を減らし、人間が自由に使える時間を増やす可能性があるとした。

一方で大多数の人がAIに使われる社会にもなりかねないと指摘。今後はひとつの組織で同じ仕事を続けるだけでなく、社会の変化に応じて「学びつつ働き、別の仕事へ移っていく」生き方が増えると見通した。

医療でも診断や手術の一部はAIに置き換わる可能性がある一方、患者と直接、接して心を通わせる看護など、人間の感性や人間性が求められる仕事は残ると話した。

「総理大臣の言うことでも疑って」

前川さんが最後に高校生へ繰り返したのは「疑うこと」の大切さだった。学びの出発点は「なぜだろう」「本当だろうか」「間違っているのではないか」と疑問をもつこと。教科書や教師から与えられた知識を記憶して試験で再現するだけでは、本当の学力とは言えないとした。

「親の言うことでも、先生の言うことでも、文部科学省の言うことでも、内閣総理大臣の言うことでも、そのまま正しいと思って鵜呑みにしないで、一度自分の中に取り込んで『本当かな』と考えてほしい」と呼び掛けた。

さらに「信ずる者は救われるではなく、信ずる者はだまされる。疑うことによって、これは確かだ、これはうそらしいと見分ける力がつき、その力を持つ自分への自信につながる」と話した。

締めくくりには「学生節」を歌い、「あんたの知らない明日がある」の一節を紹介。高校生の多くは22世紀まで生きる可能性があり、その未来は親や教師ら上の世代には分からないとした。

「文句を言う親や教師の言うことばかり聞いていても仕方がない。自分で考え、自分の未来を切り開いてほしい。私がきょう話したことも疑ってください」と語り、講演内容そのものも鵜呑みにせず、それぞれの学びにつなげるよう求めた。

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