FACTARIUM参画企業4社が連携
洗浄、3Dスキャン、金型、溶接、金めっきの技術で
華鬘(けまん)・鈴・分銅(ふんどう)を修理・復元
株式会社つばめいと(代表取締役:山後春信)が運営する、燕三条地域の企業連携プラットフォーム「FACTARIUM(ファクタリウム)」は、参画企業4社および中村硝子工作所と連携し、奈良県奈良市の律宗総本山・唐招提寺の講堂に伝わる華鬘、鈴、分銅、ガラス玉の修理・復元を行いました。
(文・株式会社つばめいと)
【華鬘(けまん)・鈴・分銅】
唐招提寺講堂
今回の取り組みでは、燕地域の町工場がそれぞれの専門技術を持ち寄り、洗浄、3Dスキャン、立体モデル・金型の製作、銅板の成形、溶接、表面処理、金めっきまでの工程を分担しました。ガラス玉の製作には、中村硝子工作所の協力を得ました。
普段は企業間取引を中心にものづくりを支えている燕の工場が、各社の技術を組み合わせ、歴史ある寺院荘厳具の修理・復元と次世代への継承に携わったことが、本事業の大きな特徴です。
約110年ぶりに修理された講堂本尊
唐招提寺では、講堂本尊である国指定重要文化財「弥勒如来坐像」の、記録上約110年ぶりとなる修理が行われ、2026年4月15日に開眼法要が営まれました。
弥勒如来坐像は、1287年(弘安10年)に造立が発願され、1292年(正応5年)に開眼供養が営まれた鎌倉時代の木造像です。像高は約2.8メートルで、1915年から1916年にかけて修理された記録が残されています。
今回の本尊修理は、2023年度から2025年度までの3年間にわたり、公益財団法人美術院によって行われました。
本尊修理とは別の取り組みとして、講堂内を荘厳する華鬘、鈴、分銅、ガラス玉の修理・復元が行われました。株式会社つばめいとが全体を調整し、FACTARIUM参画企業を中心とする燕地域の企業が各工程を担いました。
江戸時代から受け継がれてきた講堂の華鬘
華鬘(けまん)は、仏堂の内部を飾り、仏を供養するために奉納される寺院荘厳具です。
今回修理した唐招提寺講堂の華鬘には、寛永年間をはじめとする江戸時代の年紀や、奉納者の名を記した銘文が残されています。そこには、寺を支えてきた僧侶や寄進者の祈りと歴史が刻まれています。
華鬘15面、鈴26個、分銅39個を修理・復元
華鬘15面に金めっきを施し、鈴は12個、分銅は13個を純銅で復元しました。現存する鈴14個、分銅26個についても、修理と再めっきを行いました。
復元では、3Dスキャンを形状把握の基礎資料として用い、現存品の個体差や取り付け方法に合わせて一点ずつ調整しました。
FACTARIUM参画企業4社が専門工程を分担
今回の修理・復元には、FACTARIUM参画企業4社が参加し、それぞれの専門技術を生かして工程を分担しました。
有限会社 本間産業
既存部材の洗浄を担当しました。金属表面の汚れや油分を除去し、修理や表面処理に適した状態へ整えました。
株式会社 新武
現存する鈴と分銅の3Dスキャン、立体モデルの製作、絞り加工用金型の製作、銅板の成形を担当しました。日頃の金型製造で培った技術を、寺院荘厳具の復元に応用しました。
ゴトウ熔接 株式会社
成形した鈴と分銅の組み立て、仮止め、TIG溶接を担当しました。熱による変形が生じやすい銅製部品を、部材への影響を抑えながら精密に接合しました。
スワオメッキ 有限会社
華鬘、鈴、分銅の修理、表面処理、金めっきを担当しました。現存品の修理に加え、新たに製作した鈴と分銅にも、金めっきと表面保護処理を施しました。
一社だけでは完結しない工程を、燕地域の企業がそれぞれの専門性を持ち寄ることで実現しました。
ガラス玉は中村硝子工作所が復元製作
欠損していたガラス玉は、中村硝子工作所が復元製作しました。
現存品の形状や色調を確認し、華鬘全体との調和を図りながら、白色、透明、橙色の3種類を製作しました。
製作を担当した中村和宏氏は、ガラス工芸を専門とし、長岡造形大学教授も務めています。その知見と技術を生かし、華鬘の意匠に調和するガラス玉を製作しました。
表に出にくい燕の技術を、文化継承の力へ
燕には、金型、板金、溶接、研磨、洗浄、表面処理など、企業間取引を支える高度な加工技術が集積しています。一方、こうした技術や企業の存在は、守秘義務などから一般に知られる機会が限られています。
本事業は、燕の町工場が持つ技術を、歴史ある寺院荘厳具の修理・復元に生かす試みです。
3D計測、金型製作、精密加工、溶接、表面処理などの技術を組み合わせ、文化継承の新たな可能性を探りました。
プロジェクトの経緯
本事業は2024年、FACTARIUMコンシェルジュの齋藤優介氏が、関係者の紹介を受けて唐招提寺とつながったことを契機に始まりました。燕の町工場が持つ加工技術を寺院荘厳具の修理・復元に生かすことを提案し、唐招提寺の理解を得て、現物調査、試作、製作へと進みました。
齋藤氏は、元燕市産業史料館学芸員として培った文化財保存科学と地域産業史の知見を生
かし、荘厳具の状態を確認するとともに、必要な工程を整理し、それぞれの作業に適した
企業を選定しました。
株式会社つばめいとは、唐招提寺との調整、企業間連携、試作・製作の進行、荘厳具の運
搬、取り外し、取り付けまでを担い、寺院側の課題と燕の各社が持つ技術を一つの修理・
復元工程としてつなぎました。
株式会社新武 代表取締役 齋藤智則氏 コメント
代表取締役
齋藤智則(さいとうとものり)氏
「復元することの難しさを感じました。図面があるわけではなく、一つひとつに個性があります。3Dスキャンした形をそのまま作ればよいのではなく、現物に合わせて調整しながら形にしていく必要がありました。
一方で、歴史を感じながら取り組む作業は、本当に面白いの一言でした。また、このような仕事に挑戦させていただけた
らと思います」
唐招提寺 石田太一宗務長 コメント
宗務長(しゅうむちょう)
石田太一(いしだたいち)氏
「講堂の歴史は長く、唐招提寺の創建当初にまでさかのぼります。
その時代ごとに歴代の人々がお堂を荘厳し、美しく飾り、寄進者や関係者の力を得ながら寺を護ってきました。その積み重ねの軌跡が、今回修理した華鬘にも表れていると思います。
華鬘の中には、江戸時代に父母の供養などを願って奉納されたものや、昭和の長老によって奉納されたものもあります。そこには、時代を越えて寺を支えてきた人々の営みが刻まれています。
今回、燕の皆様の技術によって荘厳具が再び輝きを取り戻しました。ここに込められた思いとともに、100年、200年先へと受け継がれていくことを願っています」
今後について
寺社仏閣が所蔵する荘厳具や仏具の中には、修理を必要としながら、対応できる技術者や事業者を見つけることが難しいものもあります。
今回の取り組みは、燕の町工場が持つ技術が、製品製造にとどまらず、寺院荘厳具を守り、未来へ伝えるためにも生かせることを示しました。
FACTARIUMは、今後も寺社仏閣や関係者と連携し、対象物の状態や課題に応じて燕の加工技術をつなぎ、文化継承の新たな可能性を提案していきます。
FACTARIUMについて
FACTARIUM(ファクタリウム)は、株式会社つばめいとが運営する、燕三条地域のものづくり企業による企業連携プラットフォームです。各社が持つ技術や設備を組み合わせ、企業単独では対応が難しい案件に対して、それぞれの専門性をつなぐことで、新たな価値の創出に取り組んでいます。地域企業の技術を発信するとともに、燕の産業に精通したコンシェルジュが、相談内容に応じて企業や技術者をつなぎ、地域全体のものづくりの可能性を広げることを目指しています。
