新潟県立見附高校(藤田純子校長)の1年生72人は27日、見附市新潟東町地内の田んぼで幻の酒米「雄町(おまち)」の田植えを行った。見附市に酒蔵はないが、見附にゆかりのある人たちが力を合わせて「見附の酒」をつくろうと始まった取り組みで、昨年から同校の生徒も参加している。
田んぼに入った生徒たちは、泥に足を取られながらも、苗を手に一列に並んで手植えに挑戦した。初めは「足が抜けない」、「ヒルやばい」と声を上げる生徒もいたが、慣れてくると「泥が気持ちいい」と笑顔も。青空の下で田植えを楽しんだ。
見附に酒蔵がないからこそ「見附の酒を」
見附市には酒蔵がないが、見附に関係する人たちだけで酒米を育て、酒を仕込もうと始まった。見附市の農業法人ファーム小栗山が酒米を栽培し、長岡市の中川酒造が醸造。販売は新潟市東区の新潟酒販(株)が担う。いずれも見附出身や見附在住など、見附にゆかりのある関係者が中心になっている。
中川酒造の飯利誠常務取締役は、もともと見附出身。見附には酒蔵がないことから「見附にかかわりのある酒をつくれないか」と考えたのが出発点だった。
2年前に見附ゆかりの酒関係者と農業法人で「雄町」を栽培、収穫して日本酒を作るプロジェクトを始めた。それを報道で知った見附高校の教員が見て「ぜひ生徒にも参加させたい」と声をかけ、昨年から高校生が加わった。
幻の酒米「雄町」に挑戦
栽培するのは、酒米のなかでもファンが多い雄町。岡山県が主産地で、雄町で造った酒を好む愛好者は「オマチスト」と呼ばれる。飯利常務自身も「私もオマチストの一人」と言う。
雄町は山田錦の先祖にあたる酒米で、うまみのある酒に仕上がる一方、稲の背丈が1.5メートルほどと高くなりやすく、倒伏しやすいことから栽培が難しい。
飯利常務によると、新潟県産の雄町を使って酒を仕込む蔵は県内でも極めて珍しく、「新潟県産の雄町で酒を造っているのは、今のところここだけではないか」と話す。
田んぼは粘土質で、稲が踏ん張りやすい場所を選んだ。さらに酒造りで出る酒粕を田んぼに戻し、有機肥料として活用している。酒米を育て、その米で酒を造り、酒粕をまた田んぼへ返す循環型農業にも挑戦している。
生徒が田植え、稲刈り、酒造り、ラベル制作にも参加
見附高校の生徒は1年生のときに田植えと稲刈りを体験し、その米を使った酒造りにも一部、参加する。来年1月ごろに中川酒造で仕込み、早ければ来年3月から4月ごろに新酒として発売される。
商品名は「越乃白雁 純米大吟醸 雄町」。現在販売されている酒のラベルも、昨年参加した見附高校の生徒が考案した。店頭用のPOP制作にも生徒がかかわり、見附市内の原信、ウオロク、マルイ、酒販店などで販売されているほか、見附市のふるさと納税返礼品にもなっている。
初年度は720ミリリットル瓶で約2,000本を販売し、完売した。今年も同程度の約2,000本を見込む。栽培面積は約47アールで、昨年の収量は約1,860キロ。今後は、さらに別の蔵にも広げる構想もあるという。
卒業時に親へ感謝を込めて贈る
この取り組みには、もうひとつの大きな節目がある。生徒が3年生になって卒業する時、1年生のときに自分たちが田植えした米で造った酒を、保護者へ感謝のメッセージを添えて贈る計画だ。
酒は蔵で2年間貯蔵し、卒業式の時期に合わせて用意する。生徒は自分でラベルに感謝の言葉を書き、自分で瓶に貼って、保護者に手渡す。
飯利常務は「高校生活は駅と学校の往復だけになりがちだが、見附にはこんなおもしろいことをやっているおとなたちがいるんだと感じてもらえれば。農業や酒造り、販売の世界にも興味をもってもらえたらありがたい」と願う。
学校側も「生徒にとって初めての経験も多いが、活動を通して成長している。地域の皆さんと一緒に取り組めることは大変ありがたい」と話していた。
泥だらけになって植えた苗は、秋には稲穂となり、冬には酒へと姿を変える。見附に酒蔵はなくても、見附の人、見附の高校生、見附の田んぼをつなぐオール見附の酒が、地域の新しい物語を育てている。
