【小耳聞き耳】大隈講堂の共同設計者で新潟県民会館や旧新潟市役所も設計した建築家、佐藤武夫氏の設計による旧燕市役所本館庁舎が間もなく解体 (2014.4.23)

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重要文化財になっている早稲田大学の大隈講堂の共同設計者であり、新潟県民会館や旧新潟市役所も設計している建築家、佐藤武夫(1899-1972)が設計した旧燕市役所の本館庁舎は、早ければ6月上旬にも解体工事が始まり、夏の間には完工する。昭和37年(1962)6月の竣工から52年、威容を誇る歴史的な建造物が燕市から姿を消す。

早ければ6月上旬にも解体工事が始まる旧燕市役所本館庁舎
早ければ6月上旬にも解体工事が始まる旧燕市役所本館庁舎

旧燕市は昭和53年(1978)、本館庁舎の北側に新館を増築した。平成18年(2006)に今の燕市に合併すると燕庁舎となり、昨年5月の新庁舎開庁に伴って閉庁。耐震強度不足から、新館を残して本館は5月9日に入札して解体工事を行うことになった。解体工事が始まるまで残り2カ月もない。

本館庁舎を設計した佐藤武夫は、建築家で建築音響学の先駆者でもある。昭和元年早稲田大学卒業で、昭和2年(1927)竣工の大隈講堂では、建築家の佐藤功一(1878-1941)とともに共同設計者として名を連ね、とくに音響について苦心したらしい。

市長室や議場にはバルコニーを設置
市長室や議場にはバルコニーを設置

早稲田大学助教授として日光東照宮の「鳴竜現象」を解明。音響の研究で工学博士号を取り、教授にも就いたが、昭和20年(1945)に自宅で設計事務所を始め、26年(1951)に大学を辞め、設計事務所(今の佐藤総合計画)の経営に専念。32年(1957)には日本建築学会会長にも就いている。

全国の市庁舎、市民会館、美術館などの設計を数多く手掛けた。昭和33年(1958)の旧新潟市庁舎、42年(1967)の新潟県民会館も設計した。

正面玄関前にある水を張っていたと思われる不思議な構造物
正面玄関前にある水を張っていたと思われる不思議な構造物

旧燕市役所本庁舎の設計には、千葉県習志野市の建築家、夏目勝也さんも手伝った。夏目さんは大学時代に佐藤さんに弟子入りし、大学を卒業してアトリエ事務所に入社するまで佐藤さんの仕事を手伝った。その間に佐藤さんが旧燕市庁舎の設計を手掛けた。佐藤さんは、たくさんの建物を設計したなかでもとくに燕市役所は気に入っていたと言う。

夏目さんは、平成15年(2003)に新潟市のグループホーム竣工で来県した足で本館庁舎の見学に訪れ、その設計の特徴などを話した。当時のようすをケンオー・ドットコムで取材している。(燕市庁舎の設計に関わった建築家が庁舎を見学 2003年3月22日)

本館庁舎の屋上に突き出すグリーンハウス
本館庁舎の屋上に突き出すグリーンハウス

3階の議場は、内装にラワン材を格子状に組んでいること、各課カウンターの黒い大理石風の材料はセメントに石の粉を混ぜて研ぐ「人造研ぎ出し」という懐かしい技法であること、隣り合わせの2本の階段が中央の踊り場で交差する設計は火災発生時に踊り場の中央にシャッターが下りるという防災上の工夫だった。

外観は西洋を意識しながら日本的にヘリンボンにタイルを張り、市長室となりの応接室にはバルコニーを設けた。洋食器の町として世界へ羽ばたく燕市なので「今で言う情報発信の町。世界に通用する市役所を作ったのだろう」と、当時の市や佐藤さんが庁舎に込めた思いを推測していた。

グリーンハウスからの眺望
グリーンハウスからの眺望

当時から夏目さんは、佐藤さんの作品が建築から40年ほどたって耐震性や老朽化から次々と取り壊されていることに、歴史の欠損になると心配していた。とくに市町村合併で取り壊しが加速していることに危機感を強めていたが、ついに旧燕庁舎も実体を失って記録や記憶として歴史に残ることになった。

個人的には屋上にある、なぜか“グリーンハウス”と呼ばれている360度ガラス張りの部屋が興味深い。展望室としてつくられたらしいが、今の市役所には当時を知る人はいない。職員のアマチュア無線のクラブが無線機を置いて交信していた時期があるらしく、柱にコードネームが張ってあったりする。かつての燕消防署の建物の最上部にも火災などを目視で発見するための望楼(ぼうろう)という同じような形状の設備があり、それを想起させ懐かしい。

本館庁舎南側
本館庁舎南側

正面玄関に前には、水を張っていたと思われる、上から見ると“口”の字の形の不思議な構造物がある。議場の天井は、パネルをすき間をあけて並べたような不思議な構造のつり天井で、音響効果を考えたものと思われる。雨よけを考えてか、1階よりも2階以上の方が床面積が広く、1階から2階が張り出したようになっている。あちこちに機能的には必要と思えない装飾も多い。

完成したばかりの燕市の新庁舎は、4階まで貫く吹き抜けなどダイナミックな空間を構成しているが、ディテールを見ると徹底した費用削減もあってか、装飾はほとんどなく、節約のあとが見える部分も多いのと比べると、はるかにぜいを尽くしており、燕市の洋食器経済が急成長を始めたころの勢いを感じさせる。

 本館庁舎のパノラマ写真、本館庁舎右側に接続する白い建物は増築された新館
本館庁舎のパノラマ写真、本館庁舎右側に接続する白い建物は増築された新館

建築学的にも一定の価値がある歴史的な建造物が間もなく消え去ろうとしているのは、何とも残念だ。せめて機会を見て本館庁舎の姿を時々、写真で記録しようと思っている。


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