新潟県長岡市在住の国内外に取材する自然科学絵本の第一人者、絵本作家の松岡達英さん(81)の絵本原画展「松岡達英展ー感動の星『地球』に生きていて幸せですー」が28日、弥彦村の弥彦の丘美術館(高島徹館長)で開幕した。国内外の各地へ出向いて取材して描いた緻密で生命力あふれる原画のほか、自身で制作した生き物のオブジェなども展示し、初日から多くのファンが詰めかけた。
絵を描くのが得意で、19歳でグラフィックデザイナーを目指して上京。広告デザイナーとして活動したのち、1969年(昭和44)出版の『知識絵本』(北隆館)で絵本作家デビューした。
以来、国内から世界中を旅しながら自然を取材し、多くの絵本を発表し続けている。厚生省児童福祉文化賞、絵本にっぽん賞、日本科学読物賞など数多くの賞を受け、海外でも多くの絵本が翻訳、出版されている。
松岡さんの作品のなかから13冊の絵本の原画32点のほか、立体作品11点も展示している。会場は、松岡さんのアトリエの雰囲気を再現。床には動物たちの足跡が描かれ、天井からは鳥や虫のオブジェが吊るされるなど、展示室全体が松岡さんの世界観に包まれている。
展示された原画は、南米のジャングルから日本の身近な自然まで、多岐にわたる。自然のなかにすむ動物や昆虫を生き生きと描く。それぞれの作品から地球に生きるものたちへの深い愛情と尽きない探求心が伝わる。
初日に行われた開場式で、主催者を代表して弥彦村の本間芳之村長は「豊かな自然に囲まれた弥彦の丘美術館で、多くの子どもたちがこの地球の不思議に感動し、自然の素晴らしさを感じることができると思う」と願った。
松岡さんは、「弥彦はとにかく自然の豊かな所で、しかも万葉の時代からの歴史を感じ、生き物もいる。このいわゆるパワースポットで展覧会をできるのはとっても幸せ」と弥彦での開催を喜ぶ反面、「ぼくの絵が負けるんじゃないかと心配になってきた」とも。
子どもころから昆虫が好きで、デザイナーになって展覧会をやっているうちに偶然、『牧野植物図鑑』の編集者の目にとまって絵本作家の道へ進んだ経緯などを話した。今回の展覧会で「ぼくが一生懸命、描いた絵を子どもたちが見て、笑顔になって、それでもっと地球が好きになってくれるといい」と話した。
解説会では、代表作の『ジャングル』の原画の前では、取材で訪れたコスタリカでの体験談に花が咲いた。「ミツユビナマケモノを探すときは、まず木にかかったごみを探すんです。本当にごみみたいに見えるから」と話し、会場の笑いを誘った。
また、葉山の磯で岩をひっくり返して多種多様な生き物を観察した『うみべのいきもの』の制作秘話や、1枚の絵を2週間かけて描くという油絵と色鉛筆を組み合わせた独自の画法についても明かした。
南米で交通事故に遭ったコアリクイのしっぱを持って道路わきに運んだらその動物のにおいが手について1週間とれなかった話など、探求心はとどまることを知らない。「虫を捕るにはジャングルで立ち小便をするのが大事。虫が寄ってくるからね」と独自のコレクター術を語る姿に、来場者は熱心に耳を傾けていた。
ネーチャー&アウトドアライフマガジン「BE-PAL」(小学館)に掲載された作品もある。「ぼく夜、大嫌いなのね」と飾ったところがなく、水彩のようにしか見えない作品が油彩で描かれているという種明かしに驚きの声が上がることも。絵を見ずに話を聞いているだけでも楽しめるほど、松岡さんの人間性にあふれる解説会だった。
一般に開場式は作家の関係者や知人が中心だが、今回はほとんどが松岡さんの作品のファン。50人ほどで会場はぎっしりになり、子どもも多く松岡さんの人気の高さを裏付けていた。夏休みにも重なっているので、子どもたちの来場でにぎわいそうだ。
世界を舞台に活躍する巨匠の温かい人柄と、自然への深い畏敬の念に触れられる貴重な機会となっている。展覧会は8月3日まで。7月27日(日)にも午後1時半から作品解説会・サイン会が開かれる。7月12日(土)は松岡さんと一緒に弥彦の丘美術館周辺を散策し植物や昆虫を採取してスケッチを楽しむワークショップ、8月2日(土)午後1時半から絵本の読み聞かせも行われる。
会期中は無休で毎日午前9時から午後4時半まで開館。入館料は高校生以上300円、小学生150円だが、小・中学生は夏休み期間中は無料。ワークショップの参加や問い合わせは弥彦の丘美術館(0256-94-4875)。