新潟県三条市に空き物件の旧教員寮を改修した県央地域初の自立援助ホーム「MOMO(モモ)」(運営:一般社団法人サンクチュアリーつねよし、代表理事・松岡暢彦)が12月1日、開所する。児童養護施設や里親家庭などを巣立った若者が、社会の中で自立した生活を始めるための地域型支援拠点。定員は男子6人で、国の制度の活用で家賃や食費は原則無償になり、安心して暮らしながら就労、進学、技能習得に向き合える環境を整える。

かつて学校教職員の寮だった築35年ほどになる鉄骨造3階建ての建物を取得し、リフォームした。1階は大きな共同リビングと厨房に、浴室3室、洗濯機2台と乾燥機を備え、各階に洋式トイレがある。
2、3階は6畳前後の広さの個室が並ぶ。6室を入居用に使い、ほかは納戸や相談室、宿直室に充てる。机、いす、エアコンに加え、室内洗面台、大きな押し入れも備え、充実した居住空間だ。
利用対象は児童相談所を経由して紹介される高校生以上の若者。ただし年齢上限は近年、撤廃され、事情に応じて20代でも受け入れる。費用は国の制度による補助で家賃、食費など入居者の負担はない。
施設の運営は、若者の生活・就労・社会参加を総合的に支援するのが目的。地域住民、企業、農業関係者など多様な連携を通じて、次世代を担う若者たちの「新たなスタート」を支えていく。

自立援助ホームは、義務教育を修了したおおむね15歳から20歳未満の若者が入居し、共同生活を送りながら自立に向けた支援を受ける児童福祉法に基づく施設。児童養護施設や里親家庭などの支援を離れた後、すぐに独立して生活を営むことが難しい若者が主な対象となる。
三条市は「ものづくりのまち」として全国的に知られ、伝統産業が根付く地域。市内に約6,000の会社があり、アウトドアブランドやデザイン業界との連携が進み、若者にとって新たな職業選択の幅は広い。
一方で、社会的養護を離れた若者が孤立しやすい現実もある。「MOMO」は、そうした若者が地域の支えの中で生活を再構築し、自分に合った働き方、生き方を見つけるための中間的な住まいとして機能する。
「MOMO」は、 地域食材を生かした「お椀の食」、地域企業との連携による就労支援、安心できる暮らしの場の提供が特徴。「若者の再スタートを地域で支える」ことを理念に掲げる。
家庭や施設を離れ、ひとり立ちの途上にある若者が、再び希望をもって自分を信じられるようになること、いつか巣立つときに「この場所で過ごせてよかった」と感じてもらえることを目指す。

生活支援、金銭管理、就労支援、学習支援、心のケアなどを包括的に行い、若者が安心して社会生活を始められるよう伴走する。
代表理事の松岡暢彦さん(53)は、福岡県出身で横浜育ち。帝京大学在学中から(有)サンクチュアリを設立し、都内で飲食店を最大4店舗、経営した。2007年からシェアハウス業界に参入し、11年から自身でシェアハウスを運営。今は都内に3件のシェアハウスをもつ。

そのかたわら、地域おこし協力隊として22年3月に三条市へ移住した。3年間、首都圏からの若者やシングルマザーの移住支援に携わった。地域おこし協力隊の任期満了に伴い、ことし3月に一般社団法人サンクチュアリを設立した。
移住支援やこども食堂、空き家活用の活動で出会った児童養護施設出身者の悩みが自立援助ホームの構想の原点になった。寮付き就職の紹介はあっても、退職後の住まいでつまずくケースが多い。家賃さえまかなえれば移行できた若者もいた。シェアハウスは収益物件の制約がある。ならば公的補助の枠組みを使い、空き家を自立の受け皿に変えようと考えた。
県央地域には、小さな町工場から世界に展開する企業までが集積する。学校の勉強ではなく、仕事で必要な知識を体も使って学べる。地域企業は就労だけでなく短期受け入れや体験にも前向きと言う。

施設名は、ミヒャエル・エンデの同名の小説が由来。中にある「本当に大切なことは、急いでは得られない。生きることは、効率ではなく、“ともにある時間(トキ)”の中に宿る」というメッセージに、成果を急がず、居心地と挑戦の両立を大切にしたいとの願いを重ねた。
生活支援では、フードバンク三条や衣料提供の支援者とも連携し、物的な困窮を和らげるセーフティーネットを整備する。貧困はむしろ“心の貧困”。地域のおとなと交わり、必要とされる経験を積める場にしたいと言う。

入居者は選定中。「まずは見学や体験から。対象の若者、支援機関、地域の事業者に広く関心を寄せてもらえれば」と松岡さん。「この地域は通勤も生活もぎゅっとまとまり、車や自転車で行き来できる。誘惑が少なく、仕事に没頭しやすい一方で、食も学びもある。ここから羽ばたいた若者が、いつか地元に錦を飾れるぐらいの未来を描いている」と展望を語る。
自立援助ホームは、全国的に年々、増加している。県がことし6月に公開した情報では、県内には新潟市6、長岡市1の7施設ある。県央地域では「MOMO」が始めて。松岡さんは「目指すのはやっぱり日本一居心地がいい、日本一最高に自立できる自立援助ホームというものを燕三条でスタートしたい。ここが新たな出発点になる」と志は高い。
また、スタッフを募集している。問い合わせは「MOMO」(0120-546-157、三条市嘉坪川1-13-33)。