ドイツのTutut(トゥットリンゲン)地方で生産される、鮮やかな段染めと品質の良さで知られる毛糸「Opal(オパール)毛糸」。日本でOpal毛糸の普及活動を続ける梅村マルティナさんが初めてOpal毛糸の巡回展を新潟で開くのを前に1日、三条市荻島の毛糸と雑貨の「Blue(ブルー)」に来店した。
梅村マルティナさんはドイツ出身。1987年に医学研修生として来日し、京大で博士課程を修了、京都外語でドイツ語の非常勤講師を務めた。
編むだけで美しい模様が浮かび上がる故郷のOpal毛糸の魅力にひかれて編み物に夢中になった。2011年の東日本大震災後、被災地の避難所に毛糸を送るなどの支援活動を始めた。12年には被災地での雇用創出と編み物の楽しさを広げることを目的に「梅村マルティナ気仙沼FSアトリエ株式会社(KFS)」を設立。京都市から気仙沼市に住民票を移した。
Opal毛糸の輸入、販売を行い、気仙沼の風景などをイメージしたオリジナルカラーの毛糸「KFSシリーズ」も開発。その毛糸で編んだ腹巻帽子や平和の靴下などのニット製品を製造、販売し、気仙沼から「しあわせを編む仲間」の輪を全国に広げている。
17年にみなと気仙沼大使に委嘱された。NHKの『美の壺』に出演し、NHK Eテレの番組『すてきなハンドメイド』にもたびたび出演して作品や編み方を提案している。
Opal毛糸は直輸入などの方法でも入手できるが、新潟県内でKFSのOpal毛糸を取り扱っているのは「Blue」だけ。3日から5日までの3日間、新潟県新潟市中央区・NST新潟スマイルテレビ1Fギャラリーで開かれる「Opal毛糸としあわせを編む会 全国巡回展 in 新潟」で梅村さんが来県するのにあわせて「Blue」にも来店してもらった。
梅村さんの来店を聞きつけたファンが市外からも訪れ、小さな店舗は20人ほどでいっぱいになった。自分でOpal毛糸で編んだセーターを着たり、作品を持参したりする人も多く、「自慢しに来ました」と照れくさそうに梅村さんに作品を見てもらって喜んでいた。
梅村さんは求められると編み方を惜しみなく実演してみせた。「手を見ないで編むのね」と梅村さんの技術や経験に感心し、手元をスマートフォンで動画撮影して「帰ったらみんなすぐやるよね」と感謝していた。
梅村さんは仕事で新潟を訪れるのは初めてだが、予想をはるかに超える規模と熱意をもった編み物コミュニティーが待っていくれた。「こんなに大きなコミュニティーがあるとはびっくり。皆さんとても温かく熱心で、すてきな出会いができました」と、驚きと喜びを隠さない。
Opal毛糸が多くの人をひきつける最大の魅力は、その色と模様にあると言う。「次から次に色が出てきて、編んでいるだけで自然に素敵な模様に仕上がります。どんな模様になるかは、編む人の力加減や目数によっても変わる。自分でも思いがけないような模様ができてくるのが楽しいんです」と話す。
見た目だけではない。ドイツ製ならではの品質の高さも特徴。家庭の洗濯機で手軽に洗える実用性も兼ね備える。
全国の取扱店を訪れて編み手との対話を大切にしている。「今、皆さんが何を編んでいるのか、何に悩んでいるのか。そういった生の声を聴くことを大切にしたい」と話す。
「Blue」の店主、真野聡子さん(55)は2010年に店をオープンした。雑貨店としてスタートしたが、客の持ち物でOpal毛糸に出会って変わった。「編んだら模様が出るって、こんな毛糸は初めて見た」と衝撃を受けた。
「年を取ってからも続けられる仕事に変えようと思った時、扱うならこれしかないと思った」と強く心に決め、梅村さんにKFSブランドのOpal毛糸を取り扱わせほしいと頼んだ。
「東日本大震災から10年たって取り扱い店舗を増やす気がないと言われたけど、そこをなんとかチャレンジさせてくださいと、今まで続けさせてもらっている」。2020年ごろから取り扱いを始め、今では夏糸を含めると約500種類もの毛糸に囲まれるような店内になった。
KFSにこだわる理由がもうひとつある。「編むだけじゃなくて、編んでいることで人のためになっている。気仙沼にお金を落とすことが重要」。と言うのも、大阪出身の真野さんは、1995年の阪神・淡路大震災を大阪で経験している。
当時、大阪ガスに勤務していた。インフラの災害対応の過酷さを思い知らされた。被災地への共感と支援への強い思いがある。その思いが毛糸を通じて梅村さんと結びついた。梅村さんの来店に真野さんは「涙が出そうなくらい感動している」。
KFSの巡回展が新潟県内で開催されるのは今回が初めて。真野さんは、梅村さんの来店が実現して「涙が出そうなくらい感動する」。真野さんはフェアの会場で展示や運営を手伝う。「新潟でもっとKFSブランドを広めて、マルティナさんにまた来てもらえるようにしたい」と今後の展開に夢を膨らませている。