がん治療に伴う脱毛や肌の変化など、外見の悩みを抱える患者にカバーメイクをアドバイスする「アピアランスケア講座」がが19日、三条看護・医療・歯科衛生専門学校(新潟県三条市上須頃)で開かれた。専門家によるメイク体験やウィッグ相談、患者同士の交流などを通じ、治療中も自分らしく日常を送るためのヒントを伝えた。

講座は済生会新潟県央基幹病院で消化器外科、乳腺外科・化学療法部の部長を務める沢津橋孝拓医師が企画。県央乳癌患者会「With you cafe」が主催し、同病院と三条看護・医療・歯科衛生専門学校が企画、化粧品や健康食品を製造販売するファンケルが協力した。
がん患者とその家族を対象に午前と午後の2部制で開いた。各回20人の定員はすぐに申し込みが定員に達した。遠くは新潟市や小千谷市などからの参加もあった。
開会式で沢津橋医師は、約3年前から構想してきた講座が実現したことに感謝し、開催の背景を説明した。
日ごろ乳がん患者を診療する中で、患者ががんの告知を受けた瞬間、それまで見えていた世界が一変し、「闇の中に放り込まれたような、先の見えない怖さ」に襲われる姿を見てきたという。
乳がんでは告知後、検査を経て、おおむね1カ月以内に手術や薬物療法が始まる。乳房の切除や抗がん剤による脱毛など、治療の初期から外見に大きな変化が生じることがある。

「心の傷が癒えないまま、いきなり体も傷つく。どうにかして患者さんを支えられないかという葛藤を日々、感じている」。
外見の変化は、人からどう見られるかという不安だけでなく、自己肯定感の低下や社会生活への不安にもつながる。外見の変化にストレスを感じる患者は調査上の数字よりも多いのではないかと考えている。
表面上は「がんだから仕方がない」「治療中だから仕方がない」と受け入れているように見えても、実際には諦めに近い気持ちを抱えている患者も少なくないという。
治療に一生懸命になるほど、患者の生活の目的が「がんを治すこと」だけになりやすい。
沢津橋医師は、家族で毎年長岡花火を見に行くことを楽しみにしていた患者の例を紹介した。抗がん剤治療中、白血球の値が下がったものの、治療は「ぎりぎりできる」と医師に言われた。その「ぎりぎり」という言葉が心に残り、患者は人混みを避けようと、その年の花火をあきらめた。
本来はできることでも「治療中だから」と患者自身が行動の選択肢から外してしまう。旅行へ行かない、人混みに出ない、食べたい物を食べないといった小さな制限が積み重なり、しだいに「できないこと」が当たり前になる。
「本当は人生に五つの選択肢があったのに、自分で三つを消して二択にしてしまう。それでは楽しい人生を送れなくなる。病気の中で、それが一番大きな不利益だと思う」。

治療は本来、これまでと同じように人生を過ごすためのものなのに、現実は「がんを治すために生きる」という逆転が起きることがある。
「病気になったからといって、昨日までできたことが、きょう突然できなくなるわけではない。できないことを自分でつくらないでほしい」。
沢津橋医師は、体調の波やつらい日があることを認めながらも、当たり前の日常にある小さな幸せや、病気になったからこそ気づける幸せを大切にしてほしいと訴えた。
抗がん剤治療では、髪だけでなく眉毛やまつ毛が抜けたり、肌が乾燥したり、シミや色素沈着が現れたりすることがある。
鏡の中に映る自分を見て「髪がない」「肌が荒れている」「眉毛もまつ毛もない」と、改めて病気を自覚する患者もいる。
沢津橋医師は「鏡を見るたびに『やっぱり自分は病気なんだ』と現実に直面することを、少しでも減らしたい」と話す。
病気だけを見るのではなく、その患者が抱える悩みをどう改善し、その人らしい笑顔を取り戻すかが治療の本質と考える。

「がんの治療成績を追求するのと同じように、目の前の患者さんが生き生きと過ごすことも追求しなければならない。医療者自身がアピアランスケアに関心を持つことが大切」。
これまで外見の変化は「治療だから仕方がない」と後回しにされがちだった。現在はアピアランスケアも治療の一部として重視されるようになってきた。
ファンケルのスタッフは、予防的なスキンケアとカバーメイクについてミニレクチャーした。「アピアランスケアのメイクは、美しさを追い求めるためのものではない。その人が自分らしく、生き生きと過ごすためのメイク」と説明した。
外見を整えることは、つらい治療期間中に外へ出ようとする力にもなる。「病院でメイクをした患者さんは、来た時と帰る時では表情が本当に違う。美容の力を使い、できることから自分らしく取り組んでもらえれば」と願った。
会場には、患者同士の交流と悩み相談、ウィッグ相談、メイク体験、食事や運動などを紹介するブースが設けられた。
ファンケルのスタッフは、患者一人ひとりに「何が気になるか」「何を使ってみたいか」を聞き、肌や眉毛など、それぞれの悩みに応じたメイクを施した。
メイク体験を受けた女性は、治療による肌の変化に悩み、ふだんはマスクを外せない状態だったという。

「自分でするのとは全然、違った。肌が敏感になっているけど痛くなく、きれいにカバーしてもらって、つやつやになった。とてもうれしい」とにっこり。
乾燥を防ぐため自分なりに保湿していたものの、スタッフの助言を受けて、手入れが足りなかったことにも気づいた。「相談を聞いてもらい、こうした方がいいと教えてもらった。本当に来てよかった」と感謝した。
メイク後の自分の姿を見て、涙を流す参加者もいた。沢津橋医師は「化粧の力はすごい。外見だけでなく心にも潤いを持って帰ってもらえたらうれしい」と話した。
沢津橋医師はこれまで、がん治療による脱毛に対応する医療用ウィッグなどの購入費助成制度の普及にも取り組んできた。
燕市に署名を提出して制度創設を働きかけ、燕市での導入後は三条市など県央地域にも動きが広がった。新潟市などにも働きかけ、昨年6月時点では県民のおよそ98%が暮らす自治体で助成を受けられる環境になったという。
一方で、制度があっても患者に知られていなければ利用につながらない。今後は医療機関から制度を積極的に知らせる必要がある。
今回の講座は、三条看護・医療・歯科衛生専門学校に開催を働きかけ、2年ほど前からアピアランスケアに力を入れるファンケルとも連携して、およそ1年がかりで準備した。
患者や家族のほか、オブザーバーとして看護師、医療系の学生、他病院の医師や看護師、長岡市のアピアランスケア団体関係者も参加した。
沢津橋医師は今後、県央地域の自治体の健康づくり部門などとも連携し、継続的な開催を目指す。
「まずは今回、車輪を回したかった。県央地域に住む人たちが充実した毎日を過ごすために何ができるか考え、県内に広げていきたい」と話した。
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