東京・浅草の観光人力車集団「東京力車」に所属する新潟県弥彦村出身の女性俥夫(しゃふ)、中村寿々(すず)さん(21)が6日、弥彦村に凱旋(がいせん)し、弥彦神社と弥彦競輪場を結ぶコースで1日限りで人力車を走らせた。

弥彦村観光商工課が観光客へのおもてなしとして「すずちゃんおかえり!ふるさと凱旋人力車めぐり」を初めて企画した。
弥彦競輪場で毎年夏に開かれる弥彦村納涼音楽祭では、2年前から東京力車が人力車の運行を行っている。ことしも7日の納涼音楽祭に出演するのにあわせ、初めて前日の6日にも村内での運行を依頼した。
中村さんと東京力車の男性俥夫の2人が、弥彦神社一の鳥居前と弥彦競輪場宝光院側入り口を結ぶ片道約700メートルのコースを往復した。乗客は人力車ならではの高い視点から弥彦の風景を眺め、俥夫との会話を楽しんだ。
中村さんは白い半袖シャツに黒い腹掛けと股引、手甲、地下足袋を合わせた俥夫姿。茶色がかった髪を白い髪留めでまとめ、強い日差しの下、人力車の梶棒を握って力強く駆けた。みるみる顔が赤くなり、汗が噴き出した。

明るい笑顔を絶やさず乗客に話しかけた。華奢(きゃしゃ)な体つきだが、腰を落として大きく踏み込み、乗客を乗せた人力車を軽快に引く姿はりりしく、沿道でもひときわ目を引いた。
弥彦の土産店で販売されているクラゲ風鈴を購入するため、大阪府から1泊2日で訪れたともに26歳の女性2人も、中村さんが引く人力車に乗った。
1人は京都・嵐山や東京・浅草で人力車に乗った経験があり、「1,500円で乗れる機会はなかなかない」と、初めての友人を誘った。「普通に歩いたり、車で移動したりするのとは全然違う。乗るだけで旅の印象が思い出として残りやすい」と魅力を語った。初めて乗った女性も「乗っていると涼しかった」と笑顔を見せた。
景色のきれいな場所で俥夫に写真を撮ってもらえることや、会話を楽しめることも人力車の魅力。中村さんとは年齢が近く、話も弾んだ。

結婚して長岡市で暮らす女性は、子どもと一緒に一の鳥居前にある実家へ帰省していた。子どもにせがまれて人力車に乗り、「お姉さん、格好良かったね」と、弥彦での特別な体験を喜んでいた。
中村さんは弥彦村で生まれ育ち、現在は東京都内の日本女子大学で英文学を学ぶ4年生。大学2年の10月、交流サイト(SNS)で東京力車の動画を見たことをきっかけに、俥夫の仕事を始めた。
客を乗せて走るには、浅草の歴史や観光案内、接客、運転技術などを学ぶ必要がある。約半年間の研修を重ね、2025年4月に俥夫としてデビューした。
「人力車を引ければいいという仕事ではない」と中村さん。客の様子を見ながら自分で考えて動くことが重要で、観光案内だけでなく、フリートークやもてなしの力も求められるという。

中学、高校ではバレーボールに取り組んだが、大学進学後は特にスポーツをしていない。それでも「走っているときはそれほど重くなく、コツをつかめばスイスイ進める」と笑顔を見せた。
仕事の魅力について「お客さまと直接関わる仕事なので、『楽しかった』と言って笑顔で帰っていただけると、やってよかったと思う」と話す。この日も人力車に初めて乗る客が多く、「こんな感じなんだ」と新鮮な体験を楽しんでいたという。
弥彦で人力車を引くことに、中村さんは「自分が生まれ育った大好きな場所なので、シンプルにうれしい」と喜ぶ。中学生のころは弥彦燈籠(とうろう)まつりで祭り笛を吹いていたが、ことしは大学の授業があり帰省できなかった。「本当は燈籠まつりにも帰ってきたかった。またやりたい」と郷土への強い思いを語った。
7日の納涼音楽祭では、東京力車が抽選に当たった来場者を人力車に乗せ、競輪場内を1周する。中村さんが出演するのは今回が初めて。

大学卒業後は東京都内の企業に営業職として就職することが決まっており、俥夫の仕事は卒業を区切りにいったん離れる。
「ほかのことにも挑戦してみたい。大学で一度ストップして、また違うことに挑戦したい」と、新たな一歩を見据えていた。
|