見附の民具7300点から妖怪が生まれた 上原木呂展で学芸員トーク (2026.9.14)

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「民具最高」の上原木呂 見附の古道具が妖怪になるまでを学芸員が語る

新潟県見附市の「ギャラリーみつけ」で12日、開催中の「開館10周年記念 上原木呂展 妖怪大行進 一万鬼夜行」の関連イベント「学芸員さんとつくも神のお話」が開かれた。同館の小沼智恵利学芸員と見附市民俗文化資料館の田中真理学芸員が、上原木呂さんの作品に登場する見附の民具や付喪神(つくもがみ)について、実物の民具を示しながら約1時間にわたって語った。

「ギャラリーみつけ」でトークイベント「学芸員さんとつくも神のお話」で小沼学芸員(左)と田中学芸員
「ギャラリーみつけ」でトークイベント「学芸員さんとつくも神のお話」で小沼学芸員(左)と田中学芸員

20人余りが来場した。当初は上原さんも参加の予定だったが、都合で欠席。小沼学芸員は「作家さんはいないけれど、作家さんのことや作品のことをぜひ田中さんと話したい」と、予定通り開催した。

今回の展示で大きな存在感を放つのが、見附の民具をモチーフにした全長約18メートルの作品。上原さんが見附市民俗文化資料館などで実際に見た農具や生活道具、機織りの道具などが、付喪神となって画面を埋め尽くしている。

収蔵庫に約7300点の民俗資料

田中学芸員は、この日のトークのためにあらためて調べたところ、見附市が収蔵する民俗資料が約7300点あることがわかった。収蔵庫にぎっしり詰め込まれており、現在も整理、分類を進めているという。

上原さんは2020年にギャラリーみつけで個展を開いたのをきっかけに見附の民具に興味をもち、民俗文化資料館や収蔵庫を訪れた。その後も足を運び、この6年間で約4回、見附の民具や農具を取材した。

「ギャラリーみつけ」でトークイベント「学芸員さんとつくも神のお話」
「ギャラリーみつけ」でトークイベント「学芸員さんとつくも神のお話」

田中学芸員が初めて上原さんと直接、会ったのは2025年。新潟県立歴史博物館で見附の織物について講演したあとだった。

講演を終えると上原さんが声をかけてきて、「見附の民具って面白いよね」と話してくれた。

田中学芸員は、民具は一般には「古くて、ほこりっぽく、何に使うかわからないものが並んでいる」といった印象をもたれがちではないかと感じていた。

それだけに「民具最高、みたいな感じ」で興味を示す上原さんが新鮮だった。「こんな人がいるんだなと思って、すごくうれしくなった」と振り返る。

約7300点の資料を整理する仕事についても「なかなか終わらないなという気持ちもあったが、それがこんなに面白い、すてきな作品になった。大変なことばかりでもないんだなとうれしく思った」と話した。

桶、徳利、薬研、羽釜、杼…作品の中に民具

「ギャラリーみつけ」でトークイベント「学芸員さんとつくも神のお話」
「ギャラリーみつけ」でトークイベント「学芸員さんとつくも神のお話」

作品を近くで見ると、大小の妖怪の中に見附の民具が次々と見つかる。桶、やかん、しゃもじ、羽釜、草履、行灯(あんどん)などの生活道具をはじめ、見附の織物産業を物語る機織りの「杼(ひ)」もある。

会場には、そのモデルとなった実物の民具の一部を見附市民俗文化資料館から借りて展示している。作品と実物を見比べ、どこに描かれているか探す楽しみもある。

田中学芸員が詳しく説明したひとつが、大型の「通い徳利」「貸し徳利」。江戸時代から使われた酒の量り売り用の容器で、客は酒店から徳利を借り、必要な量の酒を入れて持ち帰った。

徳利には酒の銘柄よりも小売店の名前が大きく記されている。客が持ち歩くこと自体が店の宣伝にもなった。作品の中には「新潟村」などと書かれた徳利も描かれている。

「薬屋のひとりごと」で子どもも知る薬研

もうひとつ、この日の話題になったのが「薬研(やげん)」。車輪のような「薬研車」を前後に動かし、生薬や香辛料などを細かくする道具で、会場には木製と鉄製のものが展示されている。

「ギャラリーみつけ」でトークイベント「学芸員さんとつくも神のお話」
「ギャラリーみつけ」でトークイベント「学芸員さんとつくも神のお話」

田中学芸員によると、今ではほとんど見られない道具なのに小学生には意外によく知られている。理由のひとつが漫画、アニメの「薬屋のひとりごと」。主人公の猫猫(マオマオ)が薬研を使うため、子どもたちから「あ、猫猫が使っていたやつだ」と声が上がるという。

小沼学芸員も、アニメや漫画を入り口にすると、古い道具や妖怪が子どもたちにぐっと身近になると話した。

付喪神についても、人が見ている時は動かないおもちゃが人のいないところで動き出す映画「トイ・ストーリー」を例に、「バズとかウッディみたいなもの」と説明すると伝わりやすいと例えを勧めた。

「古いもの」が現代美術で再び動き出す

上原さんは見附の民具をただ写し取ったわけではない。作品は和紙に墨で描き、大きなモチーフを描いたあと、その内部へさらに小さな妖怪を次々と描き込んでいく。

細部になると、上原さん自身が「あまり考えず、手がどんどん動いていく」と話すような「自動書記」に近い感覚で描くという。

イベント終了後も道具を解説する田中学芸員
イベント終了後も道具を解説する田中学芸員

小沼学芸員は、作品を間近で見て細かな妖怪や民具を探す一方で、「少し下がって俯瞰(ふかん)して全体も見てほしい」と求めた。引きと寄り、距離を変えることで作品の印象も変わる。

一方、田中学芸員は、上原さんが美術家の視点から民具の面白さを引き出したことを喜ぶとともに、「私たちは資料の意味や使い方をきちんと調べ、分類し、展示で皆さんに伝えていくことが大事」と話した。

かつて見附の人々の暮らしを支え、今は収蔵庫に保存される民具。それらが上原さんの手によって付喪神となり、現代美術の中で新たな命を得ている。

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