新潟県新潟市西蒲区の旧巻町出身でニューヨーク在住のアーティスト、遠藤信(えんどう まこと)さん(61)の企画展「エンジン音の精密描写/遠藤信展」が25日(土)、弥彦村の弥彦の丘美術館で始まった。会期は5月31日(日)まで。筆を割りばしに持ち替えて墨でオートバイを描く独自の技法で、名車のエンジン音や振動、油の匂いまで立ち上がるような作品19点を展示している。
ニューヨークから世界のバイクイベントへ
遠藤さんは県立巻高校を卒業し、東京の広告代理店勤務を経て1990年に渡米。ニューヨークの広告代理店でアートディレクター、クリエーティブディレクターとして20年ほど活動した後、2011年に画家としての活動を始めた。
発表の場は美術館よりも、米国や欧州のモーターサイクルイベントのライブペインティングが中心。アラバマ州の世界的なバイク博物館「Barber Vintage Motorsport Museum」をはじめ、Haas Moto Museum、Motorcyclepedia Museum、BMW Museum、National Motor Museumなどにも作品が収蔵、展示されている。
描き下ろしの名車19点 カタナ、ニンジャ、Z1も
今回の展示作品はすべて描き下ろしの初公開作品。作品の中には「TRIUMPH Thruxton」、「MATCHLESS 600cc Silver Hawk」、「1974 Ducati 750ss Super Sports」、「HONDA CB750 K0」、「SUZUKI Katana GSX 1100S」、「KAWASAKI H1 500 Mach III」、「KAWASAKI Z1 900」、「VINCENT Black Shadow」、「YAMAHA SR500」、「HARLEY DAVIDSON Knucklehead」、「BMW R75」など、バイク好きにはたまらない名車が並ぶ。
なかでも目を引くのは、スズキの名車「カタナ」に侍姿の三船敏郎を重ねた「Samurai on Katana」、カワサキの「Ninja」に忍者姿の由美かおるを乗せた「Ninja on Ninja」、インディアンに先住民を配した「Indian on INDIAN」など、車名や文化的イメージを掛け合わせた作品。機械そのものの精密描写に加え、遠藤さんらしいユーモアと物語性が加わる。
「振動、匂いまでも感じさせる」と本間村長
オープニングセレモニーで本間芳之村長は、遠藤さんの作品について「技術者たちが最高の技術を結集して設計、製作した結果としてできあがった美しい機能美を見事に描いている。エンジン音、振動、匂いまでも感じさせる」と紹介。「単身、米国に渡り、世界で評価される作家となった遠藤先生の作品を展示できることは、主催者としてこのうえない喜び」と話した。
「エンジン音を描く」が一貫したテーマ
遠藤さんはあいさつで、自身の作品コンセプトを海外では「Capturing the Sound of the Motorcycle Engines」と説明していると紹介した。日本語の企画展タイトル通り「エンジン音を描く」ことが一貫したテーマだ。
「ニューヨークに行ったのは25歳のとき。1年で帰るつもりが2年になり、3年になり、30数年になってしまった」と遠藤さん。画家に転身して「生きていくためにはどうしたら絵が売れるか」を考え、もともと好きだったオートバイの世界にフォーカスした。
はじめは自腹でバイクイベントのブースを借りて出展していたが、しだいにオファーが来るようになった。米国のイベントでは、1978年から3年連続でロードレース世界選手権500ccクラスを制したケニー・ロバーツのマシンを前にライブペイントしたこともある。オートバイチューニングの技術者の吉村秀雄さん、通称「ポップ吉村」にまつわるバイクも描いてきた。
名もなき工業デザイナーへの敬意
遠藤さんが特に敬意を寄せるのは、オートバイを設計した名もなき工業デザイナーたち。「オートバイは誰かが設計してその形になった。最先端の素材、技術、革新的なアイデア、資金、膨大な時間をかけて試行錯誤の末、最終的にあの形になった」と話す。
「かっこいいバイクが高性能なのではなく、高性能なバイクがかっこいいデザインとして後世に残っていった。彼らが生み出した製品を、彫刻作品として捉えている」。言葉通り、遠藤さんの作品は単なる乗り物の絵ではなく、エンジンやフレーム、フィン、タンク、配管まで、工業製品としての美しさをすくい上げる。
割り箸だから描ける直線と墨のしぶき
技法も独特だ。割り箸を墨に直接つけて描く。直線を引きやすく、墨のしぶきで振動も表現する。原液の墨に加え、濃度の異なる4種類のグレースケールの墨で濃淡を表現。最後に白のハイライトを入れ、金属の光沢や立体感を際立たせる。
1点の制作に3、4日かかる。ライブペインティングではイベントの会期中、朝から晩まで描いて1枚を仕上げることもある。
「空冷のフィンはやっぱりかっこいい」
遠藤さんは「わかる人が見たらすぐにどのバイクかわかる作品を持ってきた。カタナに侍、Ninjaに忍者、そういうノリ」と笑う。遠藤さんにとってバイクの肝はエンジン。「年代によってメーカーが違っても似てくる部分がある。空冷のフィンがいっぱいあるエンジンはやっぱりかっこいい。年代による変化や機能美にも注目してほしい」。バイクについては作品制作と同等かそれ以上に熱く語る。
「故郷に錦を飾る場を」企画のきっかけ
高島徹館長は、2年ほど前に燕市内で遠藤さんの作品を見たのが今回の企画のきっかけと明かした。「筆で描かないで、どうやったらこんなに精密にオートバイを描けるのかと衝撃を受けた。欧米で評価されている作家が、ここの近くにいることを知ってほしかった。故郷に錦を飾る場を作りたかった」と話した。
土日はギャラリートークとライブペイント
会期中は毎週土曜、日曜の午後1時半からギャラリートークとライブペイントを行う。期間中を通してオーナーから借りた評価額500万円の1969年製のカワサキ500SS マッハIII(H1)を完成させ、作品ができあがっていく過程を見てもらう。
5月2日は弥彦村のヤホールで行われるバイクイベント「Bike Rally 弥彦」に参加して会場でライブペインティングを披露する。
会期中の弥彦の丘美術館は無休。遠藤さんは「土日はライブもやっているのでぜひ見に来てほしい」と来場を呼びかけている。問い合わせは弥彦の丘美術館(0256-94-4875)。
