新潟県燕市の燕市産業史料館で11日、企画展「燕〜八十里越〜佐渡 産業・工芸・文化展」が始まった。2027年夏に予定される国道289号八十里越の暫定開通を見据え、燕を中心に、八十里越(はちじゅうりごえ)の先にある福島県会津地方と佐渡の産業、工芸、食、芸能を紹介。地域を隔ててきた山や海を越え、人と技術が行き交ってきた歴史を浮かび上がらせている。9月27日まで。
八十里越を通って燕へ伝わった銅器とキセルの技術
燕の金属加工産業は、江戸時代初期、信濃川の洪水で米作りが困難になった農家の副業として和釘作りが奨励されたことに始まると伝えられている。江戸時代中期に弥彦山で銅山が開発されると良質な銅が採掘され、さらに八十里越を通って仙台や会津地方から職人が渡り、鎚起(ついき)銅器やキセルの製造技術を伝えた。
展示では、明和年間(1764〜1772)に仙台生まれの藤七が福島を経て八十里越を通り、燕へ技術を伝えたとされる経緯を紹介する。藤七は燕で生涯を終え、その鎚起技術は複数の職人に受け継がれ、本格的な鎚起銅器生産につながった。
藤七の技術は田善、現在の株式会社タゼン(宮城県仙台市)へと続く系譜で培われた。タゼンは、仙台藩の御銅師(おんあかがねし)として銅の加工と流通を担った田中善蔵の流れをくむ。伝統的な銅壺(どうこ)を現代風に復刻した「仙臺(せんだい)銅壺」や、セリの風味を引き出す「仙臺銅壺せり鍋」などを手がけている。
また、1981年から83年に仙台藩3代藩主・伊達綱宗の墓所を発掘した際、副葬品として2組のキセルが見つかった。綱宗の顎の骨には、日常的に煙管をくわえていたことを示す特殊な摩耗が確認されたという。復元には燕のキセル職人、飯塚昇氏(1934〜2025)らが携わった。
鉱山が育てた燕と佐渡の産業文化
燕の金属加工を支えた弥彦山の銅山と同じように、佐渡でも鉱山が産業や文化を育てた。展示では、2024年に世界文化遺産に登録された「佐渡島の金山」を取り上げ、西三川砂金山、鶴子銀山、相川金銀山の歴史や採掘方法をパネルで紹介している。
佐渡では、金の採掘から精錬、小判製造までを同じ地域で行う独自の体制が築かれた。江戸時代の製法を再現した金70%、銀30%の「平成佐渡小判」をはじめ、相川金銀山周辺から採れる酸化鉄を含む赤土を原料とする無名異焼(むみょういやき)も紹介する。
無名異焼では、2003年に重要無形文化財保持者(人間国宝)に認定された五代伊藤赤水(いとう・せきすい)氏(現 伊藤赤儘氏)と、六代伊藤赤水氏の作品や歩みを展示。宗像窯(むねかたがま)の技術を基盤に新たな表現を追究した宗像利訓(むなかた・としひろ)氏の「翠彩鶴首」など、会津の陶芸作品も並ぶ。
会津塗や会津本郷焼、地域に根付く食文化も
会津地方からは、会津塗、会津本郷焼、宗像窯などを紹介する。会津塗は木地作り、塗り、加飾を専門の職人が分業し、地域内で連携してひとつの漆器を完成させる点が、燕のものづくりにも通じる。
展示品には会津塗の二段重、手塩皿、現代的なデザートカップ、会津本郷焼のニシン鉢などがある。ニシン鉢は、身欠きニシンを酒、しょうゆ、山椒の葉で漬け込む会津の郷土料理「ニシンの山椒漬け」に使われてきた。
食文化では、深夜まで働く燕の金属加工職人を支えた燕背脂ラーメンと、早朝から食べる「朝ラー」の文化をもつ喜多方ラーメンを対比。佐渡のいごねりや、佐渡産天然ブリを使った天然ブリカツ丼も紹介している。
さらに佐渡の伝統芸能「鬼太鼓」も取り上げる。五穀豊穣や大漁、家内安全を祈る神事芸能で、現在も島内約120集落に継承されている。
地域によって舞いや太鼓のリズムが異なり、一足(いっそく)系、豆まき系、前浜系、花笠系、潟上(かたがみ)系などに分類される。
開通後の交流を見据えて地域の魅力を発信
八十里越は三条市と福島県南会津郡只見町を結ぶ越後山脈の山道で、1970年に国道289号に指定された。かつて新潟県側から食塩や魚類などの生活必需品が運ばれ、南会津からは繊維原料や林産物、労働力などが送り出され、人々の暮らしと経済を支えた。
企画展は、約250年前から続く交流の道筋をたどり、燕、会津、佐渡に共通する「産業が工芸や食、文化を育てた歴史」に光を当てる。八十里越の開通後に期待される観光や人的交流の活発化に向け、それぞれの地域へ足を運ぶきっかけにしてもらう。
会期中は関連イベントも開く。8月29、30日午後1時から3時まで、新館多目的ホールで「金塊つかみ体験会」を行う。無料で、入館料が別途必要。
9月20日午後2時から3時半まで、新館多目的ホールで対談会「玉川堂×タゼン―銅を叩き、未来につなぐ―」を開く。株式会社玉川堂の玉川基行代表取締役社長と株式会社タゼンの田中善代表取締役社長が登壇する。定員80人、参加無料で、事前予約を優先する。
9月21日には、株式会社タゼンを講師に「仙臺銅壺 小箱づくり体験会」を開催。午前9時半から正午までと、午後1時半から4時までの2回で、定員は各4人。参加費1,000円で、中学生以上が対象となる。
9月26日午後2時と3時からは、佐渡伝統芸能集団「越佐」が屋外交流広場で鬼太鼓を実演する。各回約20分で、参加無料、申し込み不要。
企画展は燕市産業史料館別館企画展示室で、開館時間は午前9時から午後4時半まで。休館は月曜、祝日の場合は翌平日。入館料は一般400円、小・中・高校生100円。問い合わせは同史料館(0256-63-7666)。
